本格的なリモートワークになって10日程経つだろうか。最初は、zoomでの打ち合わせも、家での作業もなかなか快適だった。しかし10日近く、家族以外との接触がない状態が続くと、ストレスが溜まっていく。これが一人暮らしだったら、尚ツライものがあるだろう。
このストレスの原因は、特に家での作業が多いからだとか、運動不足だからというのが原因ではない。犬の散歩もしているし、ストレッチや筋トレもしている。また誰かと会わないこともそこまで大きなストレスの原因ではないだろう。
おそらく「何かが欠けている状態」、「もしくは何かを我慢している状態」というのがキツイのだ。これがリアルな打ち合わせだったら、これがリアルでのコミュニケーションだったら、という「理想」と「現実」のギャップが堪らないのだと思う。もう数え切れないほど聞いた「コロナが落ち着いたら、〇〇しましょう」という言葉。残念ながらこれが「いつ落ち着くか」は誰もわからない。「あるべき姿」がとても不安定であるがゆえに、ひとつひとつに気が滅入っていくのだろう。
世間では、力を合わせてこの難局を乗り越えようと、多くのミュージシャンがSNSを利用して様々な取り組みを行なっている。これはこれでとても素晴らしいものだ。アーティストの生の声を聞くことができるし、出血大サービスのように過去のライブ映像を配信してくれるミュージシャンもいる。しかしこのような様々なモノを聞いたり、見たりしても、なかなかこのなんとも言えないストレスをぶち壊すことは難しい。
密閉したライブハウスで、密集したオーディエンスに、ステージで密接に立つメンバー4人がただだ攻撃的に演奏する。そんな日本ロック史上最高にカッコ良いバンドが20年程前にいた。その名はミッシェルガンエレファントというバンドである。
ロック好きなら知らない人はいないだろうが、今の20代のかたになると、知らない人は多いかもしれない。
個人的には、後にも先にもこんなロックバンドはいないだろう。モッズスーツのスタイリッシュさとパブロックを基調としたパンクサウンド。そして唯一無二の高速カッティングギター。一度聞いたら忘れないしゃがれたボーカルの声。
彼らのサウンドはまさに「理想」と「現実」のギャップを「音」で表現したものだ。ザラついた、ただ攻撃的なロックミュージックでありながら、それが享楽的では決してなく、やたら覚醒的であるのは、このなんともいえないギャップを彼らが直視しているからだ。
先日、家で酒を飲んでいた時に、ふと彼らの音楽を聴きたくなった。家でヘッドフォンを装着し、爆音で彼らの音楽を聴くと、えもいわれぬ快感が襲ってきた。まさにこの2020年の自宅で籠もっている我々にとっての「今」の音楽である。
外に出る、花見をする、飲み会をする、チャレンジングな仕事をガンガンすると願う「あるべき姿」と、家で感染者数の報道を見て、どんよりとした気持ちになり、一人で作業を行い、リモートで打ち合わせする「現実」のギャップをぶち壊す音楽。それは甘い言葉でもなく、ソウルフルなサウンドでもない。それは攻撃的でストレスすらも感じさせないほどのスピード感のあるミッシェルガンエレファントのロックンロールだ。
家にいるあいだ、ストレスが溜まっているあいだ、ミッシェルを聞こう。たまにはひたすら毒づきながら家で暴れよう。現実を直視し続けて疲れることが続いた時には、甘い音楽は必要ない。必要なのは、ザラついたギターサウンドである。
今回はそんな彼らのアルバムを紹介したい。
1. cult grass stars
記念すべきファーストアルバム。デビュー曲でありながら、彼らのキャリアを代表する「世界の終わり」が収録されている。とにかく演奏力の高さに目を見張るものがあるが、それよりもなによりもメロディの良さに惹きつけられる。
2.High Time
ファーストよりも、より直接的でスピード感が増したセカンドアルバム。ブレーキがぶっ壊れた車で高速を走っているようなサウンドだ。ファンでもベストにあげる人が多い名盤
3.Chicken Zombies
密室感という言葉がぴったりな3rdアルバム。ほぼ一発録りで、ライブ空間を再現したサウンド。またゲットアップルーシー、バードメンなどのキラーチューンも収録されている充実のアルバム
4.GEAR BLUES
最高傑作と名高い日本ロック史に残る名盤。1曲目から最後までバキバキのロックロールが流れる。1990年代後半の閉鎖感を見事に表した1枚
5.CASANOVA SNAKE
ギア・ブルーズが暗闇で掻き鳴らされるロックならば、これはカラカラの砂漠で流れるロックンロールだ。凄まじいスピード感で一気に駆け抜ける新しい可能性を感じさせる5THアルバム
6.Rodeo Tandem Beat Specter
音楽的にも幅が広がり、より色気の増したサウンドとバンドアンサンブル。それでいて彼らの最大の特徴である攻撃性とスピード感を維持した楽曲群。2ndアルバムと並びファン人気の高い6THアルバム
7.SABRINA HEAVEN
ジャズの要素が強くなり、音楽的にも臨界点を迎えたラストアルバム。1STシングルの「世界の終わり」のような世界観を音像で表現し、彼らの歴史は幕を閉じた
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