会社売却の際の注意点【不動産会社編】

 日本M&Aセンターやキャピタルパートナーズのような大手M&A仲介会社のみならず、これからの時代、M&A仲介(アドバイザー)市場価値は大いに上がっていくだろう。
 当然のことながら、経営者の高齢化に伴い後継者不足の問題も顕在化しつつあるのが理由のひとつだ。しかし、またそれと同時に、コロナショックによる世界同時株安でこれからの経済不安も広がっている。このことで多くの中小企業がそれなりの打撃を受けるだろう。そうすると、自ずと様々な業界内で企業内統廃合が広がっていくのは間違いない。
 
 手前味噌ながら弊社でもM&A仲介のサービスを展開している。基本は「不動産会社専用」のMAサービスだ。不動産会社同士でのM&Aは非常に相関性が強い。「株式譲渡」ではない「事業譲渡」でも宅建免許は有効に活用できるし、また業務的にわりと不動産会社同士、共通点が多いので統合が容易である。
 また財務面でも、ある意味不動産会社の財務諸表はシンプルなケースが多い。製造業のような膨大な仕入れや仕掛品が少ないのが特徴だ。

 最近、不動産会社の社長のかたと話をすると、かなりの高確率で「どこかの管理会社を買いたい」と言われる。賃貸管理会社というのは、今や、M&A業界内でも大人気の事業案件だ。ストックでの固い収入があることは非常に買収側にとっては魅力的に写るだろう。

 しかし実際のところ、現場で、そのような売却案件を目にしたときに、「売りもの」にならない企業のケースが圧倒的に多い。あくまで感覚的なところだが、おそらく案件の7割以上は、そのままの状態ではマッチングすることは難しいのではないかと思う。
 これにはいくつか理由はあるが、単純に売却企業が必要以上に「強気」で「かなり高い金額」を提示していることが理由だったりする。まさに売り手市場感が強すぎて、逆に良案件なのに見向きもされなくなってしまうのだ。
 強気で売却金額を提示するのは、それはそれで良いのだろうが、あくまで「現実的な落としどころ」の金額を見据えたうえで金額提示をしていかなければいけないだろう。

 また不動産会社を売却する際にいくつかの注意点がある。当然といえば当然のことになるかもしれないが、今後事業売却をする可能性のあるかたは、頭の片隅に留めておいて頂ければ幸いだ。

1.現状のデータを整理する
 会計データだけではなく、たとえば管理会社であれば入居者のデータや契約書の取りまとめ、物件ごとのレントロール、ホームページの反響数など、とにかく会社に纏わるデータを「可視化」することを忘れないことだ。
 売却する際のヴァリエーションもそうだが、のちのちのデューデリジェンスでもこの整理されたデータはおおいに役に立つ。


2.自分、もしくは重要人物が抜けても会社が回るような「仕組み」を準備、もしくは可視化する
 買収会社が苦慮するのが、キーマンに事業運営の比重が寄っているケースだ。そうすると、どうしてもその「人材」ありきでのM&Aが進んでいく。勿論、こういったケースも良いのだが、買収会社の大半は、「誰でも回せる仕組みを持っている企業」が欲しい。そうすると、たとえば仲介業であれば、マニュアルの作成をしておく、また管理会社であれば基幹システムの構築等、第三者がすぐ使えるようにしておくシステムが必要かと思う。
 当然、不動産業には営業要素は高いのだが、それでも「回る仕組み」というのは構築しておかなければならない。

3.簿外の除去
 中小企業では簿外リスクが付き物だ。特に小さな会社だと簿外での取引、また簿外の使用も多いだろう。もし売却になった際は一旦、これらの簿外資産などを整理する必要があるだろう。

4.全株主の把握
 最終的にM&Aは、株式を譲渡することで一旦は完結するが、この株主が複数人いる時は、実に厄介になる。たとえ、力のある社長がいて、その会社を売ろうと思っていても、株主が別にいると、それは残念ながら机上の空論に過ぎなくなる。
 まず売却を考える際に株主の現状を把握する必要があるだろう。

5.すぐに売れないことを理解する
 尖ったサービスを持っている企業や業界のリーディング企業でもない限り、いきなり話がトントンと進むわけではない。(勿論、そういったケースもある)
 また会社を売ろう、と考えた時は、時既に遅し、というケースもある。
 まずは、企業を「売れる状態」にすることを念頭に置くことが重要だ。その際には、まず足元の事業の整理、見える化、仕組みづくりが重要であろう。


 これから日本にも企業淘汰の時代がやってくる。
 その際に事業売却も1つの選択肢になっていくだろう。その際、決して後ろ向きな考えではなく、あくまで企業価値の向上という点で考えてみても良いのではないだろうか。
 仮に売却の話しが進まなくなったとしても、企業価値を上げるという認識をしているか、していないか、そしてそれ相応の努力をしているかしていないかで大きな差がでるのではないだろうか。