2019年、不動産業の開業について

 不定期であるが、不動産の開業についてのアドバイスを求められることがある。

 一昔前まで不動産業というのは、非常に参入障壁が低く、いわば比較的「誰でも」独立しやすいものだった。理由としては、仕入れ商品がなく、かつ多少の広告金額を広告会社に払えば、割と仲介業はなんとかなったからだ。
 しかし、この数年間で不動産業の開業の参入障壁は高くなったような気がする。逆に世の中全体としては、独立、スタートアップが過去最高に容易になったにも関わらず、だ。

 2019年の現在、たとえばコードが書けるエンジニアが新しいビジネスモデルを思い付いた場合、どのように起業するだろう。おそらくまず事業提案書、事業計画書を作成しながら、VCに話を持ちかけるだろう。事務所は当面は自宅でも良い。メンバーが増えた時点で、シェアオフィスなどに移動する。そしていざ初動の資金調達が可能になった時点で、リリースを打ち、パートナー企業の開拓を行う。

 おそらくここまでで経営者自身のコストとしては、100万円もいかないかもしれない。楽な世の中になったものだ。

 では不動産業の開業は、どうだろうか?

 まず開業のために事務所の契約を行うが、パーテーションで区画を仕切り、入口は個別のものとしなければいけない。わかりやすくいえば、個別のテナント契約が必要になるケースが多い。
 当然、通常の事務所契約は費用が発生する。仮に20万の賃料の事務所でも、半年の保証金が必要になる場合、120万円を用意しなければいけない。また、契約金のみならず、事務所の什器備品も準備なければいけない。理由としては、宅建の申請要件で、電話の設置などが必須項目のためだ。
 また宅建免許を取得するためには、直接供託を行うか、保証協会への加入が必須となる。
 直接供託の場合は、1000万円が必要になるので、多くの人が60万円の分担金を保証協会に支払うことになる。しかしながら、60万円だけではおさまらず、実際は諸々の諸費用を含めると100万以上発生してしまう。
 諸々纏めると、都心であれば500万円程度の開業費用が発生するだろう。

 「在庫のない商売」と一昔前まで言われていた不動産業だが、それが最近は決して開業のしやすさに直結はしなくなった。

 また、不動産業を開業をする際、初期の段階では、それなりに新規顧客獲得のために広告活動を行わなければいけない。通常はポータルサイトに物件を掲載することが多いのだが、このポータルサイト等に支払う費用もバカにならないだろう。そう考えると、開業資金だけではなく、運営コストも決して効果の高い商売とは言えなくなっている。

 ちなみに東京商工リサーチの調査によると、2018年に全国で新しく設立された法人の数は、12万8610社。
 そのなかで、1位の運送業が20パーセント以上の伸びを出すなかで、不動産業は、マイナス3パーセントの落ち込みの15701社。
 2017年の不動産業開業が約11パーセントの伸びがあったのにもかかわらず、急降下している。
 これは、開業の困難さだけでなく、金融機関の引き締めや、また市況の流れも影響しているだろう。

 とはいえ、不動産業自体の開業に魅力がないわけではない。コミュニケーションが高かったり、土地や建物に関心のある人からすれば、とても魅力的な仕事だろう。
 ユーザーやオーナーのニーズに応えるのも、とてもやりがいを感じることができる。
 
 またこのようにそれなりに費用が発生するにも関わらず、現在も少ないながらも、上手く開業費、運営費を抑えて、工夫を凝らし事業を推進しているひとたちもいる。

 今後の業界活性のために、小規模で燃費の良い経営を行っている経営者にヒアリングしていくのも重要かもしれない。
 
 どのような形であれ、不動産というモノは無くなりはしない。革新的なサービスは、もしかしたらこういった新進気鋭のチャレンジャーのアイデア、工夫で生まれるかもしれないことを忘れてはならない。