日本のロックの歴史は、60年代にまで遡る。古くは、はっぴいえんどや村八分が日本語のロックを定義し、70年代のシンガーソングライターのブーム、そして80年代のバンドブームなど独自の歴史を辿ってきた。
90年代の終わりになると、それらの歴史の文脈から正統な日本語ロックが萌芽していく。
エレファントカシマシやスピッツなど、情緒的であり、かつしっかりとしたバンドサウンドを奏でるミュージシャンが台頭し、ヒットチャートを賑わした。
40歳前後の世代にとって、彼らのメロディやサウンドはとても馴染みがあり、たまに何かの機会で彼らの音楽を聴くと、とてもノスタルジックな気分になる。
しかし、そうした音楽自体は、段々色褪せていき、今やアイドルミュージックやダンスミュージックが日本の主流となっている。90年代の彼らの音楽を耳にする機会は少なくなっていた。また昨今のバンドサウンドは、彼らの音楽スタイルを踏襲しているというより、どちらかといえばアメリカ型のパンクミュージックの型を踏襲しており、90年代のスタイルから逸脱したスタイルが多いように感じる。
この「あいみょん」という何とも奇妙な名前のミュージシャンは、日本の正統なフォークロックとメロディを合わせもっているとても稀有なミュージシャンだ。
勿論、巷には、懐かしい90年代の音源をカバーしたり、また彼らのようなメロディを咀嚼しているバンドは、あるにはある。
しかし、大きく彼らとあいみょんが異なるのはその音の作りと、歌詞にある。
音づくりでいえば、ドラムは乾いた音にし、ギターもどちらかといえばディストーションをかけずあくまでギター本来の音を引き出している。BPMは、110程度の曲が多く、とても心地よい。またその独特の歌声は、乾いていながらも太く、人々の情感を揺さぶる。音質をここまでこだわっている同世代のミュージシャンは少ないだろう。
歌詞は、歌詞だけを読んでみるととても過激だが、そこには他者とのコミュニケーションの居心地の悪さや、現代のどこか地に足のつけづらい世の中での個人観を歌っており、まさに今の20代の気持ちを歌っている。
彼女の親は音楽関係の仕事をしており、また彼女は学生時代に小沢健二の熱狂的なファンだったらしい。彼女と同世代でこのような音楽環境と嗜好の人間は、彼女しかいないように思える。
よくよく考えると、90年代の後半という時代は異質だったと感じる。携帯電話は主流になりつつあり、インターネットが広まり始めた時代。2000年代を迎える前の時代の胎動の時期だったように思える。
この2018年、2年後に東京オリンピックを迎え、シェアリングエコノミーが台頭しつつある今、良いにしろ悪いにしろ、日本の大きな変化が数年後に起こる可能性がある。
そんななか、彼女の音楽は果たして時代をどのように切り取るのか。
これからの活動がとても楽しみなミュージシャンだ。
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