AIの脅威や可能性についてここ数年間議論されているが、はたして不動産業務においてAIは、どこまでその力を発揮できるだろうか。
この件についで考えてみたとき、そもそもの前提として2つの条件がある。
1つめは不動産業界のITリテラシーの低さである。今でこそ物件情報の取得は、レインズやatbbからだが、本当に貴重な物件概要書は、紙である。土地情報や売買情報は、紙面をPDF化してメール等で送信するか、ファックスするしかない。また申し込みや買い付けも大手企業では、オンライン上でのやり取りが主流になりつつあるが、全体としてはファックスが多い。要は物凄くアナログな部分がまだ残っている業界ということを改めて認識しなければいけない。
2つめの条件としてAIで、できること、できないことの選別だ。コンピューターの原則は、数値をデータ化し、それを足し算、掛け算をしていくのが原則だ。その数学をベースにして、論理(AイコールBイコールC)と、確率と統計を組み込んでいく。つまり教えるべき傾向や数字を教え続け、学習させていくのが基本だということだ。では、どこまでそれが実証可能なのだろう。
まず、データ認識に関してだが、これは容易にできる。たとえば売れるリンゴと売れないリンゴの統計、またその確率をデータとして検証していけば、容易である。また物体の認識も現在では可能となっている。リンゴを写真に撮ると、それを過去の学習データから導き出し、「これはリンゴだ」と認識することができる。では、応対などはどうであろうか?これも問い合わせの傾向や導き出す答えを学習させていけば自動的に返信できるようになるし、実際チャットボットはスタンダード化しつつある。
不動産業務においてまず、AIとの関係性が高いのが物件データである。
不動産というのは、わかりやすく言えば動かない物体なので、その動かない箱自体のデータを取り込んでいく。そしてその物件自体の過去の取引事例や販売価格、賃料を統計していくと、適正であろう価格が導き出すことができる。
またその物件の空室期間や一部屋ごとの賃料、また設備などもデータ集積を行えば、様々な傾向を見ることができる。
そうした時にたとえばユーザーの好みなどをヒアリングしてAIが最適な物件提案するのはかなり可能になるのではないだろうか。(実際そうなっている)
また物件自体に写真をかざしたり、部屋の写真や設備を写真にかざすことで物件認識もできる。(これも現在存在している)。位置情報と物件データと画像認識データを使えば、かざしている物件の価格と設備がわかるようになっている。
つまり、物件データにおいては、かなり機械学習との相関性が高く、様々な業務のシーンで役立つようになるのではないだろうか。
たとえばスマホに物件をかざすだけで、老朽化のポイントを把握したり、かざすことで日当たりの良し悪しを測定できたり、また対象の物件の空室期間がどれだけの長さだったのか、つまり人気があるのかないのか、また適正賃料、また価格はいくらなのかなども調べることができたり、など。
しかし不動産業務において、非常に困難なものはユーザーのデータ集積である。ユーザーの問い合わせ経路までは測ることができ、データ蓄積をすることができたとしても、成約に至るケースや至らないケース、またその成約動向、また申し込み後の最適なデータをトラッキングすることは、かなり難しい。
理由は、様々だと思う。
1.そもそも購入機会があまりなく、物件を借りる機会が少ないため、小売のような膨大な購買データを貯めることができない。
2.クローズの取引が多いため、クローズされた物件の成約事例を貯めることができない。
3.反響を取ってから成約に至るまでのデータを蓄積しておらず、その学習データを取り入れることができない。
4.不動産会社自体が接客の内容、顧客の傾向、分析を行っていないためデータが取れない。
5.そもそもの業務として、申し込みから成約までの手続き自体がその時点でクローズ化されるので、そのデータを全体で集積されることはできない。(但しブロックチェーン等を上手く使えればまた変わるかもしれない)
6.上記のような点を踏まえたうえで、そのうえさらに不動産会社の法人数が極端に多いため、一元的なデータ取り込みが難しい。
逆に、もし仮に成約データやユーザー動向を貯め続けると、どういうことが起こるだろうか?
1.そのエリア、かつその物件に住みたいユーザーの年齢、性別、職業、年収の傾向がわかるようになり、不動産開発に参考になる。
2.住んでいる人口の流入数と流出数と物件の相関関係が明らかになり、適正な価格が導きやすい。また駅前開発にも有効活用できる。
3.物件広告を行う時に年齢等でターゲットを絞ることができ、そのターゲットに向けたサービス開発を行うことができる。(今のようにプル型ではなく、その単体物件で広告を打てる)
4.ユーザーの成約データを基にした、接客応対が可能になり、営業社員の最適な人員配置、育成が可能になる
5.クレームを発生させる入居者の傾向がわかり、善後策を取ることができる。
以上のようにユーザーデータというのはある種の宝だ。不動産業務において一次接点を持つことで、データ会社にはわからない独自のデータを構築することができる。
本当に極端な例だが、ユニクロの服を着たお客様は、スグお部屋を決める傾向がある、とか。
九州のお客様は、だいたい何件物件を見て申し込むか、とか。
接客や問い合わせだけではなく、そのあとのデータをどれだけしつこく集積していくかが大きな鍵となる。
ただそうはいっても、人のすべての動向までAIが判定できるかは甚だ疑問である。
接客中の文脈を全て読み込むのは、個人情報の問題もあれば、そもそも文節や意味、言葉の行間までを読み取れるか疑問だし、そもそもそれをどうデータベース化していくのか、まだまだハードルは高い。
とはいえ、今後のAI開発において、物件データのみならず、ユーザーデータを蓄積した大きなサービスを開発した会社が新たなスタンダードになりえるかもしれない。ただし、かなり困難で相当な時間を要するように思う。
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