ローリングストーンズ「NO SECURITY」は、スタジアムとライブハウスの架け橋となる名盤だ

 最近、ローリングストーンズの未発表音源や完全ライブ盤が定期的に発売されているが、この「NO SECURITY」は、そのなかでもかなり素晴らしい内容だ。
時は1997年に遡る。1994年に発表した前作の「Voodoo Lounge」は、80年代のスタジアム路線から離れて原点回帰を目指した作品だった。そこから発表された次作の「brige to babylon」では、90年代の音と原点のロックンロールをミックスさせた快作となった。
もし1998年のこの作品が、更なる原点回帰を図ったり、また逆に当時の時代の音(サンプリングやローファイ)に振り切ってしまっていたら、もしかしたら00年代以降のローリングストーンズは生きていなかったのかもしれない。
そんな重要な作品だった「brige to babylon」を引っさげて、彼らは「brige to babylon」ツアーを開始する。こツアーは、世界的にも大規模に行われ、日本でも来日公演を行った。
そのツアーの終了後に行われた小規模なアリーナクラスを短期間に回ったツアー名が今回リリースされた「NO SECURITYツアー」だ。
数十年前にもこのアルバムは発表されていたが、かなり選曲を絞っており、今回のようなほぼフルセットではなく、世間的にもそこまで大きな話題には上らなかったように思う。
さて、この音源を全曲聴くと、当時のスタジアムバンドから、唯一無二の「ローリングストーンズ」というジャンルを確立させたことがわかる。
80年代後期に発表された「Flash Point」よりも明らかに演奏が若々しくなり、躍動感が生まれている。

実を言うと、このNO SECURITYツアーの前のツアー、brige to babylonツアーで彼らはメンバーだけでの円形ステージをステージの真ん中に作り、そこでライブの中盤演奏していた。勿論、ライブの大きなハイライトになり、観客は盛り上がったが、それ以上に彼らのスタンスや今後の動き方を決定づけたような気が今になってする。その成果がこのNO Securityツアーにも現れているように思える。

よく現場感、という言葉を耳にする。企業であれ、組織であれ規模が大きくなると、なかなか本来の組織のありようや目的を忘れがちになる。要は、現場感が無くなる、と。
そんな時は、やはり原点に帰る機会をあえて作るのもひとつなのかもしれない。
原点に帰ることで本来のあるべき姿と、今後の方向性の足場固めをすることができるかもしれない。
そんなことを思わせてくれる傑作ライブアルバムだ。