この数年、いや下手したら14.5年程のあいだ、この表題の件をユーザーから質問されることが非常に多い。実際のところ、賃貸物件を申し込んだあと、物件はキャンセルできるのかどうかという、不動産会社で働くもの、もしくはその付随した業務を行う人たちにとっては、基本中の基本の質問であるこのことに対して、明確な答えというのは、特に決まってはいない。そして意外なほど、この質問、疑問を持っているユーザーがとても多いことを不動産会社は忘れがちになる。
さらに、またこの質問は、思いのほか、不動産業の構造的な欠陥の芯をついている。
まず、この申し込み後のキャンセルは可能かどうかに対する答えはこうだ。
「可能です」
ユーザーが明確な意思決定をしながらも、物件をキャンセルすることを仲介会社は止めることができない。申し込みの際に申込金を頂くことも、現在は奨励されていない。(もっとわかりやすく言えば、申込金を取るな、と指導されている)
契約というのは、口頭であれ意思を伝えれば効力を発するという原則があるので、例えば物件を申し込んだ段階で契約が効力化するという言い分があるかもしれないが、おそらくこの物件の申し込み段階で契約成立ではないか、と裁判で争っても、現段階では勝利はしないだろう。また特に現時点ではそういった判例もない。
では、物件を申し込んでも契約しなければいくらでもキャンセルできるのだ、と言われれば、それはその通りかもしれないが、それだと実際には困ると言いたいところが不動産会社側の言い分だ。
まず部屋留めの方法から見直してみたい。
首都圏、大阪などの政令都市では、まず気に入った物件があればユーザーは申込書に個人情報を書き込む。現在はウェブ申込なども普及し始めている。この申込用紙と身分証を添えて、物件を管理している管理会社にメール、FAXなどで送り、初めて部屋が止まる。
部屋が止まった段階で、管理会社はまず保証会社に審査をかける。そしてその後オーナーに最終確認を取り、オッケーを貰った後に、入居日を決め、契約準備に取り掛かる。
これが所謂、通常の申し込みから契約の流れだ。この段階で管理会社はそれなりの事務作業が発生する。また物件は数週間の空室リスクが発生する。
たとえば全く契約する気のないユーザーが、とある現在空室の物件を申込みする。しかし1週間後にキャンセル。そしてさらにまた別の契約する気のないユーザーが申し込みをするが、またキャンセル。これが続くと下手をしたら1か月強の空室が発生する。オーナーにとっては、たまったものではない。また管理会社もオーナーに詰められる。そして仲介会社は、案内した時間、労力は水の泡となる。
このようなことが起こるのは、あまりにも非生産的なので不動産業者側からすると、「なるべくキャンセルしないという前提で申し込みしてほしい」というのが本音だ。しかしそこに強制力がないのが悲しいところだ。また仲介会社には、このキャンセルができるというところを上手く利用して取り敢えず申し込みを促す業者も多くなっている。これは本当にここ10年で急増している。
ここまで考えると、物件はキャンセルができるという前提はありながら、不動産業界の構造的な問題がやはり根っこにあるのではないかと個人的には考える。
物件を申し込む際に、たとえばクレジットカードなどで与信審査を行うのと同時に決済までしてしまえば、キャンセルは防げるかもしれない。
ポータルサイトや不動産会社のホームページなどで、ユーザーが物件を選び、部屋どめを行う。サイトにはキャンセル料が明記されている。気に入った物件がネット上では現在募集中だ。とりあえず部屋を抑えておいて、仲介会社に内見を依頼する。なんていうことができれば不動産業界は大きく変わるだろう。
しかしなかなかそれが実現できないのは、理由がある。まず物件のデータベースが一元化されていない。特に仲介会社経由で申込をした場合、各管理会社と物件データベースを連動してなければいけない。また冒頭で述べたように賃貸不動産を申し込んだ際に申込み金は受領できない。そしてキャンセル料(手付け金流し)をユーザーから取ることはできない。
このように業界構造的な部分での問題を解決しない限り、申込みした後のキャンセル問題は、なかなか前進していかないだろう。
これからどんどん業界も変わっていくだろう。
しかしこの業界の問題の根っこの部分、またユーザビリティの問題をクリアしなければ、なかなか業界革新は進まないのではないだろうか。
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