ほんの数年前まで多拠点生活というのは、絵空事のような気がしていたが、今や、だんだんと世間に認知度が上がっている。勿論、今後、この多拠点生活がどのようにスケールするかはわからないが、少なくとも空き家解決や地方創生の重要なコンテンツとなる可能性がある。
最近では、この多拠点生活を軸としたサービスもどんどんリリースされている。
とはいえ、まだまだ多拠点生活は、ハードルが高いものであるような気がする。理由は、いくつかあるが、ひとつには需要と供給のバランス数値がまだ導き出されていないことがあるだろう。そしてこれは、受け皿だけ用意すれば解決できるものではなく、おそらく日本人自体の働き方の変化との相互作用が必要であると個人的には考える。
未来のことはわからないが、10年後は、多拠点生活はメジャーなものになっているかもしれない。人の流動化が促進され、働く人々が自由に移動できる世界。その際は、確実に今の業種や職種に大きな変化が必要になる。
これはテクノジーの進化と大きな相関関係があるように感じる。
2019年の段階で、多拠点生活が可能な職種、業種は、どのようなものだろう。おそらく10年後には全く様変わりしているだろうが、現在の職種、業種を纏めてみた。
ちなみにここで考える多拠点生活の定義づけは、1都市内の回遊(たとえば都内だけの多拠点)ではなく、全国エリアでの回遊と定義する。
(あくまで個人的私見ですので、あしからず)
職種(求人ジャーナルより参照)
・営業(内容により可)
ウェブプロモーションをメインに行っている企業は可能だろう。しかし当然ながら、それ自身の商品の仕入れ先開拓の営業は、なかなか多拠点生活は難しいかもしれない。
法人営業であれ、個人営業であれ、多少の相対営業が必要なような気がする。
ちなみに営業アシスタントなどは、スマホ、ノートパソコンさえあれば対応できるだろう。
いっぼうルート営業やラウンダーなどは、それ自体がIT化できる(インサイドマーケティング)ので必要ないかもしれない。
つまり現在、それなりに企業からの予算の権限をもらったウェブプロモーション系のかた、また営業アシスタントの職種であれば多拠点生活ができる。
・事務・オフィスワーク(職種により可能)
経理業務などは、セキュリティ面をクリアすれば、多拠点生活が可能。しかしながら、これも人ではなくテクノロジーに代替できる。これは営業事務などもそうだろう。
また人事系、総務系のバックヤードの仕事は、これはコミュニケーション等の必要性の高さから、現実的には難しいかもしれない。
・販売(やや可能)
ECサイトでの販売活動であれば多拠点生活でも問題ないが、アパレルの店頭販売員、家電量販店のスタッフ、携帯ショップの販売員などは難しい。その「地」に根差した販売は、当然シフト出勤がある。この販売という職種に従事している人は現在、実数値はとても高い。
・飲食(難)
レストラン、居酒屋などで働く人々は、これもシフトなどがあるため、多拠点生活は難しい。飲食業は、かなり多拠点生活との相関性が低いように感じる。
・サービス、警備、清掃(難)
冠婚葬祭系のサービスは、打ち合わせやイベント実施のために場所に根付かなければいけない。警備、清掃なども同じことだろう。
・イベント、レジャー、娯楽 (難)
映画館のスタッフやホテルのコンシェルジュサービス。これも多拠点生活は難しい。勿論、全て自動化できるかもしれないが、やはり人のサービスがないと無味乾燥に感じるかもしれない。
・教育、カルチャー、スポーツ (ほぼ難)
基本的には相対しなければいけない仕事だが、たとえば資格系の仕事などは研修動画の配信などで、対応できる。しかし本来の意味での教育や文化的な交流は、相対することに非常に意味があるように感じるので、このあたりも現在は難しいのかもしれない。
・理容美容(難)
当然、美容用品の販売はECサイトで問題ないが、実際のヘアメイクなどは、当然、その「地」に根差しているか、もしくは現場に、行かなければいけない。
・医療介護(難)
医療介護の仕事に従事して多拠点生活を送ることはかなり困難だろう。働き方によるが、相関性は相当低いように感じる。
・ドライバー、配達(場合によっては可)
拠点から拠点への移動なので、長距離ドライバーなどは可能かもしれない。しかしエリア小規模の配達員は難しいだろう。
・製造、工場、倉庫(難)
IT化によって一番大きなインパクトがあるのが製造業の職種だ。職種自体が代替されるかもしれないが、現在の工程管理や在庫管理や現場のマネジメントはその人でなければできない。
・IT、エンジニア(ほぼ可)
システムエンジニア、プログラマー等は、ほぼ可能だろう。ただプロジェクトリーダーなどは、取引先との細かい打ち合わせが必要になる。しかし、これもスカイプなどで対応できるだろう。あとは動画打ち合わせがオッケーかどうか発注先側との、打ち合わせ設定だけだ。基本は多拠点生活はほぼ可能であると感じる。
・クリエィティブ・編集・出版(職種によっては可能)
デザイナー系であれば可能。ウェブデザイナー、イラストレーターなどは相関性は非常に高いだろう。しかし設計、製図になると、現場に赴かなければいけない。またマスコミ関係は、記者であれば可能かもしれないが、特定の取材の場合は、多拠点生活は難しいかもしれない。
・専門職(職種により可)
会計士、税理士などはリモートでも対応可能。しかしながら、たとえば研究、開発職などは難しい。割とその専門家のニーズが多くあり、需給バランスが高い職種は、多拠点生活は可能なような気がする。
・土木、建設、農水産物(難)
「地」に根差した仕事であるため、現在はかなり難しい。しかし季節によって労働比重が変わる場合は、多少の移動生活が可能かもしれない。
業種では多拠点生活の可否は判断が難しい
ハローワークでは、20の業種が設定されているが、この業種で多拠点生活云々は判断ができない。
A:農業,林業
B:漁業
C:鉱業,採石業,砂利採取業
D:建設業
E:製造業
F:電気・ガス・熱供給・水道業
G:情報通信業
H:運輸業,郵便業
I:卸売業・小売業
J:金融業・保険業
K:不動産業,物品賃貸業
L:学術研究,専門・技術サービス業
M:宿泊業,飲食サービス業
N:生活関連サービス業,娯楽業
O:教育,学習支援業
P:医療,福祉
Q:複合サービス事業
R:サービス業(他に分類されないもの)
S:公務(他に分類されるものを除く)
T:分類不能の産業
たとえば教育業でも、そのサービス内容の設計する人と、実際、現場で教える人がいる。また、事務アシスタントもいるだろうし、もしかしたらその会社にエンジニアがいるケースもある。
たとえば教育業でも、そのサービス内容の設計する人と、実際、現場で教える人がいる。また、事務アシスタントもいるだろうし、もしかしたらその会社にエンジニアがいるケースもある。
そう考えると、この業種だから多拠点生活が可能でるか否かよりもあくまで職種を基点において考えたほうが良いだろう。
多拠点生活が広まっていくには
簡単に纏めてみたが、これはあくまで2019年現在の「働きかた」だ。しかし、冒頭で述べたように10年後は大きく時代環境は変わっているだろう。そうすると、職種の大きな変化が起こるだろうし、「働きかた」自体の変化が起こるだろう。
1.多拠点生活が可能な職種への割合移動
たとえば飲食業に従事する人々の割合が、IT系の仕事にスライドしていくと、多拠点生活ができる人々は増える。これはテクノロジーの進化による産業構造の変化に関係している。
2.テレワークの普及
企業制度によって、多拠点生活が「可能な」職種の人たちにテレワークを推進させる。採用戦略や福利厚生の意味合いがあると思うが、このあたりを大企業が中心に推進していくことで多拠点生活が広がるかもしれない。
3.パラレルワークの一般化
職種をひとつに統一せず、様々な職種に同時に従事することで多拠点生活を可能にする。たとえば上記に纏めてみた「地」に根差している仕事を週に半分、そしてネット上で完結できる仕事を半分にする。そうすることで、移動可能な日とそうでない日を明確化することができる。
4.職種自体の業務革新
たとえば農業や水産業も、全てテクノロジーで業務遂行できれば、その土地にいる必要はなくなる。最近ではドローンの配達試験などが実施されている。そうすると、ほぼ全ての人が移動可能になる。そうすると、大きく社会は変わるだろう。
昨今の空き家の問題や地方創生の問題に対して、多拠点生活の提案はひとつの契機となるかもしれない。しかし働く人々の住む場所の回遊率を高めるのは、生易しいものではない。現在、多拠点生活を送っている人々や事業者が「リア充」のように見えるのは、圧倒的なマイノリティだからだ。それは先も述べたように現在の産業構造と生活文化によるところが大きい。
しかし、それでも、これが10年後、20年後はスタンダードになり得るかもしれない。
未来は誰にもわからないのだから。
ちなみに約10年後、日本の生産年齢人口が7000万人を下回ると試算されている。
このあたりの課題も同時に解決しなければいけないだろう。
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