フリーランス独立、起業は容易になったが、彼らの入居審査は容易ではない。

 働き方改革により、エンジニア、コンサルタント、各業種のエージェントは、以前より楽に独立することができるようになった。企業は、外部の業務委託を促進するようになり、個人対企業の契約も抵抗なく締結できるようになっている。
 また、起業に関しても、今やわざわざ金融機関から借り入れをする必要も少なくなり、ベンチャーキャピタルなどの資金調達ができるようになり、楽にお金を集めることができるようになった。なんてよい世の中になったのだと思う。
 また事業所に関しても、コワーキングスペースなどが大企業のテナント内に設置されるようになり、大仰な審査がなくても安い賃料で借りることができる。これも以前のように、マンションの一室をSOHOとして賃貸借する必要がなくなり、また高い保証金を払う必要もなくなった。

 これだけ見ると、とても独立しやすく、また起業も抵抗なくできるように感じる。しかし、まだ決定的に世の中が追いついていないものもある。そのひとつが、彼らが住む居住用賃貸の入居審査だ。

 まず、フリーランスで独立して数ヶ月は、かなりの確率で入居審査を落とされてしまう。現在、賃貸借契約の入居審査に対し、保証会社が代行して行うケースがメジャーになっている。保証会社は、金融機関の審査機関の履歴を見るだけではなく、勤務先の勤続年数や年収も見る。となると、フリーランスでいくら年収見込が高くなるであろうスキルがあっても、「無職、年収見込みナシ」と判断されてしまい、入居審査を落としてしまう。

 また設立間際の法人契約(法人で借りて社宅扱いにする)に関しては、もっと厳しく、まず1年程度の事業年数だとかなり審査は厳しい。
 そして4.5年程度の企業も、決算書を3年分提出しないといけないケースが多い。
 
「部屋を借りるのに3年分の決算書の提出」である。
  不動産賃貸業界で働く人にとっては常識かもしれないが、世間的には非常識に見えてしまうのは私だけだろうか。

 企業によっては、税金対策のため敢えて利益圧縮している企業も多い。特に少人数で事業を運営している会社は、かなり割合が高いのではないだろうか。そうすると赤字申告の企業も多い。
 ここで「いや、そんな税金のちまちました対策するための会社なんて」というご意見もあるかもしれないが、そもそも個人のフリーランスである一定の年収を超えた段階で、法人化したほうが所得税は、軽減される。そうするとフリーランス→法人化された初年度から数年は、まずキャッシュフローを重視するため、税金対策を行うのは当然といえば当然だ。
 これは国の税金の制度上の問題であり、会社の在り方の議論とは全く別の軸だと思う。

 しかし、残念ながらその辺りの考慮は、審査機関には全くなく、「事業初年度上手くいってない→資力ナシ」と判断し、速攻で審査落ちとなる。

 当然、現在は特殊犯罪のための部屋借りや、内容を変更しアリバイ会社を使い、部屋を借りるなど悪質な事案に対しての措置もあるだろう。しかし、そうはいっても、多数の真面目なエンジニア、デザイナー、新規法人が泣きを見ている現状をないがしろにしてはいけない。
  彼らをしっかりと信用し、彼らがお部屋を借りることができる制度を整備しなければいけない。

 彼らは、審査を落とされた時、 「世の中は厳しい」と思う。しかし、そんなことはなく、単純に「不動産入居の審査は時代遅れ」なだけではないだろうか。
 
 ちなみに金融機関の不動産融資の件で話題になった改竄されたオーナーの性質は、どちらかといえば一流企業のかたが多いようだ。
 「一流企業→与信が高い。それだけで金融機関はオッケー。ただ現金がない。あ、じゃあ改竄しとこう」というまさに冗談みたいなスキームが大きな問題を引き起こした。
 これも画一的な融資審査のスキをつかれた事例である。

 では、どのように彼らが入居審査を容易にすることができるのか。
  いくつかの施策は打つことができるかもしれない。
 たとえば、フリーランス、スタートアップ専門の第三者機関が借主になることもひとつかもしれないし、審査機関と借主の面談も良いかもしれない。事業計画書や実績などを提出書類に課すのも良いかもしれない。いろいろなことができそうだ。

 しかし勿論、それなりのリスク発生に対する準備と事業リソースは必要になる。

 ただこのまま放置すると不動産業界自体がいっそう時代遅れになるリスクのほうが高いことを忘れてはならない。
  

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