不動産仲介業の将来性について

  20年前ほどになるが、不動産会社に勤めていた時、とある上司にこう言われた。「もうあと10年で仲介業は無くなる。仲介手数料も取れなくなるし、管理会社が直接仲介をするようになる」。

 その後の10年で状況はどうなったのだろうか?要は10年前の話だ。結局のところ、10年前は、まだ不動産仲介業は、元気いっぱいだった。とはいえ、仲介手数料は、徐々に無料化されていっていたような気がする。また10年前は、多くの会社がポータルサイトに強く依存していった。所謂、賃貸の部屋探しがネットを使って探す、という基準になった時代だった。

 それから10年後の現在、いよいよ不動産仲介業全体は、大きな変化を起こしている。このあたりの現在の状況と将来性を少し分析して考えてみたい。


 業界の内部構造の変化
 まずネット掲載自体が、10年前と変わり、圧倒的に主流になった今、管理会社の殆どがネット掲載を自分たちで行うようになった。一昔前までは、あくまで業者間のサイトだけの掲載だったのが、今や、エンドユーザー向けのサイトにもどんどん掲載するようになった。
 仲介会社の物件は所謂、二次広告である。逆に一次広告掲載を行なっている管理会社は、自社での仲介を始めた。これにより仲介会社は広告掲載できる物件が少なくなっていった。
 
仲介実務自体も大きく変化していった。以前は営業力だけで通用していたのだが、マーケティングの知識や運用、また人員の工数管理をしっかり行なっていかなければ仲介実務は成り立ちにくくなった。それにより、マネジメント方法や企業戦略なども変化していった。

 外的要因による構造変化
 この10年のIT化により、一般のユーザーにも不動産仲介の構造が理解できるようになった。それに伴い、仲介手数料自体を獲得することが難しくなった。以前は情報格差をひとつのセールスのネックにしていたのだが、現在はそれができない。またネット上には、物件情報が溢れているため、ユーザーとしては、仲介構造を理解し、物件情報もネットで拾えるため、仲介自体の存在意義を見出しにくくなった。

 またここ数年は、顧客と不動産会社のやり取りなどのツールも変化した。大昔は、電話が主流だったのだが、そこからメールになり、今はLineなどの、SNSでのやり取りが主流になりつつある。
  それと同時に最近の流れでは、不動産テックの隆盛もあげられる。ビッグデータを解析し、マーケティングを行うことで、今までとは違った顧客獲得の手法が生まれつつある。また自動応対機能を導入し、顧客の希望物件を瞬時にマッチングできる機能も生まれた。
 

 未だに変わらないもの
 こうして外的要因や構造上の変化を挙げると、仲介業はかなり大きな変化を起こしている。実際のところ、その流れに対応しなければかなり厳しいだろう。しかしながら、では全ての仲介会社が無くなるかと言えば、決してそうではない。

 未だに最後の部屋申込までのアテンドは、営業力によるところが大きいし、また顧客のリピートや紹介は、仲介会社自体の取り組みというよりも、その営業マンの人間力によるところが大きい。
 そうなると、仲介会社という「組織」というよりも、仲介をする「エージェント」としての要素が重要になってくるだろう。

 将来性
 では、不動産仲介業の将来性は、どうなのか?
 オーナーが不動産管理を管理会社に任せる際、相当重要なところは、「お客様をつけられるかどうか」の部分である。いくら管理メニューが充実をしても、その物件に客付ができなければ、その管理会社はオーナーには魅力的には映らない。

 またオーナー自体の物件の「最適賃料」を提案できるのは、やはりユーザーの声を多く聞いた不動産会社である。仲介力がなく、べらぼうに高い金額で管理を任されても、逆にマイナスになるし、適正賃料より随分と安い金額で提案したら、それはそれでいくら客付しても、オーナーにとっては喜ばしいわけではない。

そう考えると、仲介業にとって重要なことは、「いかに自分たちの仲介力の強みをユーザーのみならず、オーナーにもアピール」できるかが重要になる。過去の実績を活かし、それを可視化して、一次広告を取るため、オーナーに提案していく行為が重要になるだろう。

 もし仮に構造自体の変化が大きく進み、ビジネスモデルとして厳しくなったとしても、「仲介力の強み」は、まるで遺伝子のように脈々と受け継がれていくのかもしれない。