「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」という言葉

 この言葉は、19世紀の初頭イギリスのジョン・アクトンの言葉だ。

 先日、日産のカルロス・ゴーン会長が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で逮捕された。
 この事件に関しては、内部告発から端を発したものであるらしいが、何せルノーとの関わり合いがあるため外交的な要素もあるし、ましてや数十億円の虚偽記載での逮捕を何故このタイミングで行うことも、何か裏がありそうである。

 いずれにしても、企業ガバナンスにおいて、この権利の集中というところが、そもそもの原因のような気がする。

 ドイツの政治学者のマックスウェーバーという社会学者は、おもに権力を三類型に分けられている。
 カリスマ的支配、伝統的支配、合法的支配の三つの支配のいずれかを持つことで権力化は進んでいく。おもに経営では、カリスマ的支配の側面が強いのだろうか。
 カリスマ的支配は、他の2つの支配要素と比べて、非日常性を旨としている。そのあたりに企業における権力者の不祥事の原因があるように思える。
 (しかしながら、当初はカリスマ的支配でも、伝統的支配、また合法的支配に切り替えていくことでガバナンスは担保される)

またノースウェスタン大学のアダム・ガリンスキー教授は、権力を持っているものといないものとを比較した興味深い実験をしている。
 被験者を2つのグループに分け、一方には自分に権力があると実感した経験について、もう一方にはまったく権力がないと感じた経験について語ってもらう。そして、自分の額に「E」の文字を書かせる。すると、権力を感じた経験について語ったグループは、相手から見て逆さ向きに「E」を書く傾向が強かった。つまり、権力を持つと、他人の視点で世界を見ることが難しくなる。

またアメリカの心理学者キプロスも権力における心理学実験を行った。

  実験方法はこうだ。 

 仮想の会社にて、二人の管理職を設定し、一方には大きな権限を持たせて、もう一方には、小さな権限を持たせる。
  そうすると、大きな権限を持たせた管理職は、部下に対して、頻繁に指示を出して権力を行使し、 さらには、部下の評価を低く見積もってしまうという結果が出た。
 これは、権力を持つことで正常な判断力を失いがちになることを示唆している。

 また逆にこの権力の危険性を察知し、「権威」に移行したローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの例もある。
 先代のカエサルの権力集中化に反発したブルータスが彼を暗殺したことから、彼はリスクマネジメントとして、数々の自分の宮廷を建築し、あたかも権力行使を棚上げするような政治手法を取った。つまり権力から権威への移行である。
 これにより長きに渡りローマ帝国は、地中海エリアを統治することができた。

 いずれにしても、権力とは一種の麻薬のようであり、そしてそこには人間は抗えないようだ。

 まだ今回の事件の全容はわからないし、何かの裏があるのかもしれないが、何れにしても権力の構造について改めて考えさせられる事件となった。